もう一つの世界・五夜

⇒ガGラ

2007年11月02日 00:00

あれは確か、クリスマス間近の日曜日の夕方だった

七日町のメインストリートはクリスマスの飾り付けがされ、各店からはクリスマスソングが流れていた

道行く人が、みんなハッピーに見える
そんな夕暮れ

私は躍る心を抑えつつ、待ち合わせ場所の映画館(シネマ旭)へと向かった

今日の格好は、ネクタイにジャケット、それにダッフルコートを着込んで挑んだ

時計を見ると待ち合わせの時間の10分前だった

ひさちゃんはまだ来てない
「よし。間に合った!」

ホッとした瞬間

「よーっガジラ!」

誰かが私を呼んだ

丸坊主頭のカシワイだった
(あえて敬称略で呼ばせてもらいます)

カ:「何、お前もルパン観に来たの?」

(こっちのセリフだっちゅ〜の)
ガ:「んだよ」

カ:「なに〜、随分ツかして(気取って)いるんね」

ガ:「映画観る時は、いつもこの格好なんだ!」
(勿論ウソである)

カ:「ふーん」

そんな会話をしているところに、ひさちゃんがやって来た

ひ:「こんばんは……あら?カシワイ君」

実はカシワイもペーパームーンの常連仲間の一人

ひさちゃんの、うれしそうな、悲しそうな、そんな複雑な一瞬の表情を私は見逃さなかった

ガ:「じゃ、入りましょうか」

カ:「んだな」
(お前に言っていねズ)

ひ:「今日は随分カッコイイね」

ガ:「今日は特別ですから」

カ:「映画観る時は、いつもこの格好なんだど」
(うるさいよカシワイ!)

ひ:「(笑)そうなの」


場内は、まばらな客で、席も沢山空いているにも関わらず、私、ひさちゃん、何故かその隣にカシワイという席の並びになった

(さあ皆さんご一緒に!カ・シ・ワ・イ〜)


1978年
ルパン三世劇場版第一作目
のちに【ルパンVS複製人間】

おもいっきりアダルト対象に作られた作品で、難しい過ぎて内容が分からない、それどころか、過激なお色気シーンには目のやり場に困った

もしこれが【カリオストロの城】だったら、もっと違がったロマンスの展開になっていたかも知れないと、未だに思うのである

映画が終わると
カシワイが

「これからメシでも食べていがねが?」
と言い出した

すると、ひさちゃんが

ひ:「私、これから用事があるんだ」
と言った

ガ:「えっ・あ、実は僕も用事があったんだ…」

ひ:「えっ!そ、そうなの…それじゃ…また…ね」

と言いながら彼女は小雪の舞い散る夜の街に消えて行った



カ:「用事って何?」

ガ:「………」

カ:「なぁ、メシ食っていがねが」

…………


その後、ペーパームーンは突然、経営者が変わり、ひさちゃんも辞めてしまいました

あれから30年

今はAZ(アズ)七日町というビルが建ち、全くあの頃の面影はなくなっています

でもママにもらった、ひさちゃんの写真が一枚…

今も昔のままの笑顔で引き出しの中に……

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